損保9条の会が毎年定例開催している秋の講演会は今年21回目を迎え、10月19日、生保9条の会と合同で「『産業と平和』を考える」と題して、東京都北区「北とぴあ」において、154名の参加で開催されました。
講演会全体は、YouTube 次のリンク先から視聴することができます。
講演会オープニングは、生保朗読の会「こだま」のみなさんによる朗読、窪島誠一郎(「無言館」館長)さんの「こわしてはいけない」、黒柳徹子さんの「するめ味の戦争責任」(『窓際のトットちゃん』より)の2つが披露されました。窪島さんの詩は「こわれそうになっても こわしてはいけない 私たちの憲法」と何度も繰り返され、参加者に熱く響き渡りました。
5つのスピーチ「私たちの産業と平和について語る」 【損保】浦上義人さん(全日本損害保険労働組合)
アジア太平洋戦争のもと大規模損害を補いあう世界の再保険が機能せず、保険業界に対する政府統制が強まり、損保会社の整理統合(48社から16社へ)、戦争保険の販売、任意である地震保険の強制加入など、損害保険も戦時統制下に組み込まれていった。戦禍の拡大により保険市場が縮小、収入保険料に倍する保険金支払いなどにより損保産業は破綻していった。戦争への加担という苦い体験を経て、「平和でなければ成り立たない産業」を合言葉に、大数法則に基づく保険料算定制度を整え、戦後復興を成し遂げてきた。1992年に政府が「停戦合意を派遣前提」とするPKO活動としてカンボジアへ自衛隊を派遣、その際に自衛隊員のためのPKO保険を作った。2003年イラク戦争勃発直後、「イラクは戦争地域でない」として自衛隊を派遣した際にもPKO保険を適用した。戦争にふたたび損害保険が加担するという重大事態だと認識している。ヒロシマ平和公園には全損保の「慰霊碑」があり、毎年8月の「原爆記念日」には慰霊祭や平和集会を開催している。「平和であってこその損保産業」を合言葉に、組合員の平和教育と平和を守る取組みを引き続き行っていく。
【生保】久保木清三さん(元明治安田生命)
15年戦争のもと生保業界は、①戦費調達のための国債の大量引受②海外投融資の増大、「満州生命」創立への参画③戦争死亡に対する無条件支払い、戦争傷害保険創設④徴兵保険の販売・普及など、戦争遂行の国策に協力していった。その結果、国債利回り低下、海外資産の喪失、保険金支払い急増などにより壊滅的打撃を受け、戦後もインフレによる契約価値の棄損、保険金支払い・解約の一部凍結などにより生命保険の信用は失墜した。生命保険はその成り立ちから戦争支払い免責を是としており、平和であってこその産業である。現在生保業界は、海外展開・投資も盛んで海外収益の割合も年々増加し、平和な国際環境は極めて重要だ。生保経営においては、SDGSの思考、健康増進、気候変動への対応、地球環境保全、地域社会貢献などに取組むとともに、非人道的兵器を製造する会社には投資しないという平和志向のシグナルを発信している。
【海運】平山誠一さん(元外国航路船舶機関士) 日本のエネルギーや食糧の99.5%を海上運送が担っている。かつての太平洋戦争で、船員は国家総動員体制のもと強制動員され、少年船員2,000名を含む6万人余が戦没、その死亡率は陸海軍軍人の2倍もの43%にも達した。米英の海上通路破壊作戦で日本商船隊は壊滅した。敗戦直後、民間船は、復員兵や民間人の輸送に当たり、朝鮮戦争時は米軍の輸送に当たり、その後ベトナム戦争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争など国際武力紛争の危険な輸送に当たった。有事法制に伴い、①福田内閣で船員は徴用の対象②小渕内閣では周辺事態法で民間協力条項③小泉内閣では武力攻撃対処法で業務従事命令④2015年安倍内閣による安保法制強行以降、民間人船員を「予備自衛官」に採用する制度を導入、有事の際には正規の自衛官として第一線の輸送業務に従事させる動員体制が確立されつつある。
【出版】寺川徹さん(出版労連教科書対策部)
戦後の歴史教科書は、科学的な歴史研究の蓄積に基づく教科書へ変わったが、復古的で自国中心的な歴史を求める保守層や右翼勢力からたびたび攻撃されてきた。こうした攻撃に抗し「検定制度は検閲であり憲法違反」と主張したたかわれた家永裁判は、その主張は認められなかったが、国民の教育権を認め、国の教育への関与はできるだけ抑制的であることも確認された。その後、教科書には様々なことが書けるようになり、戦争の記述についても被害だけでなく加害の歴史も書かれるようになった。一方、1990年代後半以降、新しい教科書をつくる動きが起き、神話、天皇賛美、戦争美化の教科書が文科省により採択されている。私たち出版労連は、政府見解を押し付けるような検定制度に反対し、真に民主的な教科書普及と教科書採択制度を求めている。
【銀行】黒木信雄さん(元三井住友銀行) 日本の3メガバンクは、欧米の核兵器製造企業に対して合計4兆7,600億円(1ドル150円換算)の投融資を行っている。銀行自らが掲げる非人道兵器製造企業へのファイナンス禁止を含む「環境・社会ポリシー」に反する企業行動だ。岸田政権の軍拡を推し進める「安保3文書」にお墨付き与えた有識者会議のメンバーに、三井ファイナンシャルグループ取締役会長の國部毅氏、三井住友海上保険顧問(元防衛事務次官、在アメリカ特命全権大使)の黒江哲郎氏が入っている。有識者会議は、敵基地攻撃能力保有や武器の輸出など防衛力抜本強化を提言、その中で國部氏は防衛産業の強化や消費税増税・法人税抑制などを主張している。
斉藤貴男さん講演「今度こそ加害者の立場にならないために」
石破首相は安倍政権時の言動で党内「リベラル派」の様に目されているが、その実態は根っからの右派、9条改憲論者で、自衛隊明記を主張し、米国との核共有、アジア版NATOを言い出している。日本の高度成長は、朝鮮戦争、ベトナム戦争の「特需」で果たされてきたという事実を私たちは受け止めるべきだ。「安保3文書」は米国と同じ名称が使われており、名実ともに日米一体化が急速度で進んでいる。「マイナンバーカード」は監視社会の基盤となり、新しい国家総動員体制に使われるであろうことを危惧している。憲法9条への自衛隊明記、緊急事態条項創設など改憲の動きが強まっている一方、閣議による集団的自衛権行使容認、安保法制強行、「安保3文書」による軍拡など、形骸化の一途をたどっている平和憲法だが、麻生太郎氏が言うように「ナチス憲法」にされないために、今がふんばり時である。またしてもやってきた帝国主義の時代、「台湾有事」を「日本有事」にさせないためにASEANの全方位外交に学ぶ必要がある。今度こそ、日本が加害者の立場にならないためにも。